009 労働法違反には厳しく対応せよ



 Chiefのもともとの専門と、時代背景を考えるともっと早くMZRCで取り上げるべきテーマだったと思うが、いろいろあって今ごろになって提言することになった。
 という割にはたいした量のない提言になるかと思うが、内容的にはかなり重要である。文献などを調べまくって、本気で書けばきちんとした数千字のレポートになるが、現時点では余裕がないので考えられる範囲内で述べることにする。

 ここ数年、不況のためか雇用を取り巻く環境は厳しくなっている。ただ、この状況はおかしな部分がある。不況で仕事が少なくなっているはずなのに、過労死や長時間労働に苦しんでいる人が多い。どういうことかといえば、リストラで頭数を減らし、その分残った人でまわしているということだが、その量が半端ではないらしい。さらに、その時間外労働に対して適正な賃金が支払われていないという事実がある。これがサービス残業といわれているものである。

 サービス残業をなくしていくには、もちろん使用者側の遵法意識を高めてもらうこともあるが(最近企業のコンプライアンスが言われてはいるが...)、やはり国をあげて違法労働に対して厳しい姿勢で取り組むことも必要であると私は考えている。そのためには、現行法の範囲で対応できることと、法改正が必要なこととあるが、それぞれ述べていく。

 現行法の範囲で対応できることは、違法労働の取り締まりの強化である。そのためには、労働基準監督官の大幅な増員が必要である。どのくらい必要かといえば、現在の10倍は最低必要である。それでもすべての事業所を年に1度臨検できる程度である。現在労働基準監督官の数はおよそ3,500人といわれているので、10倍というと35,000人へと31,500人も増やさなければならない。現在労働基準監督官の採用試験の最終合格者数は大体100人であるが、これは定年退職等減少分の埋め合わせもあるので絶対的な増分は大してないだろう。かといって、現行の採用方式でこの31,500人を5年計画で増やすとしても毎年6,300人も採らないといけない。これは近年の受験申込者数を上回る数字である。また、現行の方式で受験可能な年齢は22歳〜29歳なので偏ってしまう。ほかに労働基準監督官を増やすためのルートも後ほど挙げる(法改正が必要かもしれないので)。
 労働基準監督官を増やしたところで、これまでのように労働者の告発を待ってから動くようでは意味がない。定期的に、積極的に(これは告発を待ってから動く消極的の反対の意味で使っている)取り締まりに回る必要がある。また、違法がわかればすぐに未払い賃金の支払い等民事的な強制、刑事的に送検・逮捕をしなければならない。もちろん、可能な限り重い刑を課す必要があるだろう。特に大企業の場合は現行法の下では懲役刑を課したほうがよいだろう。

 法改正が必要なもの(法改正が必要になりそうなもの)を挙げる。まず労働基準監督官の増やし方だが、現行の採用試験以外にも事務官や技官から監督官に異動できる制度を作る必要がある。無駄な公務員が多いという批判があるが、私は配分が悪いだけだと思っている。したがって、無駄と思われる公務員をどこの省庁に属しているか関係なく労働基準監督官に回せるようするのである(国税専門官も少ないと思っているが、ここでは触れない)。場合によっては内閣命令で異動させてもよいだろう。
 また、司法警察権を行使できる職を増やすというのもひとつ考えられる。もちろん、全面的に開放してしまうのは労働基準監督官を増やすのと同じなので、ハローワークや雇用均等室の職員が部分的に行使できるようにするのである。たとえば、雇用均等室に採用に関する男女差別の相談が持ち込まれた場合、強制的に取調べを行い、必要に応じて行政指導を行うが、改善された気配のない場合雇用均等室の職員が逮捕してもよいようにしてしまうのである。もちろん、労働基準監督官とのつながりを強化する必要もある。ただ、たらいまわしにならないようにしなくてはならない。
 今検討されている公務員試験改革で労働基準監督官も国家2種行政職と同じ試験で採ろうとかいう動きがあるが、私はどちらかといえば反対である。「どちらかといえば」と但し書きをつけたのは、採用過程のどこかで労働法・労働事情の知識を問う筆記試験があれば賛成であるからだ。個人的には記述1本勝負がいいが、労働基準法を中心に広く浅く問う択一試験があってもよい。平成15年度の労働基準監督官採用試験の択一問題、あれは難し過ぎるのではないか。

 次に罪を重くする必要がある。特に罰金の額があまりにも低すぎる。労働基準法第5条強制労働の禁止に反した場合は1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処するとあるが(労働基準法第117条)、それ以外はせいぜい罰金なら50万円以下、懲役なら6ヶ月である。これは武○士のように時間外労働の未払い賃金額が総額35億円に上ったとしても刑事的には数十万円の罰金かせいぜい半年の懲役で済むことを意味している。民事的には一度に大金を支払わなくてはならないことでダメージが大きいが、刑事的には軽すぎる。そこで、罰金の額を未払い賃金の総額まで取れるようにするなり、数年の懲役を課すことができるようにする必要がある。
 また、特別法(いわゆる均等法やパートタイム労働法など)には、刑事罰の規定のないものもある。現在の雇用状況を考えるとこういった性や雇用形態の差から起きる問題に対して強行法規を設けてもよいのではないか。

 さらに労働者が行政機関へ相談・告発・その他救済を求めたことを理由に解雇等その他不利益となる取り扱いをしてはならない旨を明文化する必要がある。しかも、それは刑の加算対象にしてしまう必要がある。理由はわざわざ述べるまでも無いように思えるかもしれないが、内部告発者の保護である。こういった組織における犯罪において、内部告発が事態を明るみにするのに最も威力があるからである。単なる禁止規定の上に罰則のある強行規定にすることでより効果が上がるだろうと思う。
 これはすべての企業が絡む犯罪に共通することであるが、立証責任をすべて企業側に要求する必要がある。個人が証拠を集めるのには限度があるので、企業側が完全に否定する材料をそろえられなかった場合は企業側にクロをつけてしまうのである。個人の保護の意味ももちろんある。先進国の中にはそうなっている国もある。

 ここまで労働法に対する意見を述べてきたが、あくまで最低限必要なコンセプトである。より具体的に必要なこと(たとえば労働基準監督官の数や量刑)は、法律のプロではないのでわからない。また、ほかに必要なこともあるだろう。とはいえ、これまで述べたことをやるだけでも、今国民が抱えている不安はだいぶ解消されるだろう。現場の人間はあくまで法令に従って動くしかないので、法令を作る側、行政のトップ(=大臣)が動かなければならないのである。(2003.10.9)


 量刑の設定がわからないと書いたが、ふと違法残業の量刑を思いついた。一つは、累積違法時間外労働時間を24で除した日数の懲役を科す。法人に対する懲役刑というのはありえないので、自然人の誰が懲役を受けるのかという問題が発生する。一般的には法人の代表者、代表取締役というのが思い付くが、大企業だったらちりも積もれば何とやらでものすごい時間数になることもありうる。また、大企業なら専務レベルで人事管理者がいてもおかしくないので、副数人で分散するというのもありうる。ただ、あまり経営責任とは関係無いレベルにまで科すのはちょっと問題なので、せいぜい経営陣すべて+場合によっては前職までが懲役の対象だろう。
 罰金額は、前に延べた通り、累積未払賃金額を最高額とする。ただ、労働者にしわ寄せがいかないよう、司法の手で差し押さえをするのである。差し押さえ対象は、まずは経営陣の報酬、次に内部留保、その後は企業・経営陣の資産かな。企業の資産といっても生産に関係あるものに手をつける必要はない。

 懲役刑と罰金刑に分散するというのはやっていいことなのかどうかわからない。大企業だと累積違法時間外労働時間が100年単位になってしまうといった現象もありうる。そのため、罰金刑と懲役刑を適当に組み合わせないと、殺人罪並になってしまうことになる。まぁ、過労死した労働者が複数でたらそれはそれでいいが(もっとも、過労死は業務上過失致死でとったほうがいいと考える)、他の刑とのバランスを考えたら、一人当たりの懲役期間に上限を(強制労働の最長が10年ということを考えると10年が妥当か)設け、あとは金銭清算ということになるだろう。(2004.01.19)

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